怪盗ダイアナ

 
最終更新日時:


8/31~9/13

ダイアナのセリフは、過去のスペシャルボスについてです。
時計塔の方は、現在から過去への順番となっています。
摩天楼の方は、過去から現在への順番となっています。

時計塔の怪盗ダイアナ

やぁ、騎士さん。いい夜だね。君も、この時計塔から空を眺めに来たのかい?
・・・「妖しげな影を追いかけて来たら君がいた」?心外だなぁ。私はただの怪盗だよ。
何を盗むかって?色々あるけれど・・・最近はあるものに夢中なんだ。
それはとっても美しくて、貴重で、何度でも眺めたくなる宝物さ。
何だと思う?当ててみなよ。・・・もし当たったら、私のお気に入りをひとつあげる。


・・・絵画?金貨?ふふ、残念。私の集めているのは”物語”だよ。
”物語”を集めるなんて聞いたこともない・・・そんな顔をしているね。だけど、私にはそれができるんだ。
これをご覧。大粒の、綺麗な宝石だろう・・・だけど、こうして夜空にかざせば・・・
ふふふ、驚いた?そう、まるで生きているように映像が映し出されるんだ。・・・私には、”物語”を”宝石”に変える力があるんだよ。
今日のような空気の澄んだ夜は、物語を眺めるのには最高だ。だから、この町で一番高いここに来て、楽しもうとしていたところだったんだ。


そうだ、せっかくだから君も見ていかないか。とっておきの宝石を見せてあげるよ。
そうだな・・・「ある傭兵の物語」から、ある「シニガミの物語」まで色々あるけれど・・・どれからが良い?ふふふ、分かった。
これから君に見せる物語は、すべてが「騎士にまつわる物語」だ。
宝石が映し出す「騎士」は・・・君かもしれないし、君じゃないかもしれない。それすらも君次第なんだ。
ふふ、難しい事を言ってしまったかな。ともあれ、こんなにゆっくり時間の流れる夜だから付き合ってよ。それじゃあ、一つめだ。


最初に君に見せるのは、燻した銀の色をした”イヴァン”という名前の宝石だよ。空に映しだされた光をご覧。一人の男が、硝煙の匂いをさせながら歩いているね。
男は昔、組織の戦闘員だった。非情な実験の犠牲になろうとしていた子供達を、男は組織から連れ出した。
組織が開発した、本人の意思とは関係なく仲間を襲ってしまう薬に彼らは悩まされていたが、それを救ったのが騎士だった。
明け方に、男が見るのは銃声と爆発音のこだまする夢。しかし徐々にその音は薄れ、代わりに子供の騒ぐ声へと変わっていく。
男が目を覚ますと、子供たちが口を揃えて名前を呼んだ。朝食の匂いの向こう、キッチンによく知る人影を見つけると、男は眩しそうに目を細めた。


・・・ふふ、ファミリーっていいものだね。今度は、ビビットピンクにきらめく2つの宝石だ。名前は”ルルカ&ルルナ”。
宝石の光の中で楽器を演奏し、歌っている二人の少女はどちらも吸血鬼だ。元は妹だけが「純血」で、姉はその血を半分だけ宿す「従者」だった。
姉と妹はその血の違いのために、一度は違う道を歩みかれたけれども、騎士の働きでまた再び姉妹として共に暮らし始めることができた。
今、舞台を降りてハイタッチをする彼女達の表情は夏の陽のように晴れ晴れとしている。
「次の新曲は何にする?」顔を寄せ合い、声をひそめて相談する二人の頭には、しかし同じ一人の人物が浮かんでいた。・・・ふふ、楽しそうな結末だったね。


今度は、夕闇に光る海の色をした”ロメオ”という宝石だ。・・・少しきざな色男が、水平線に沈む夕陽を見送っているね。
彼は、大昔に恋人と引き離され、その怒りから罪を犯して冥府に堕ちた。一度は恋人の面影を残した人間と出会い、短い逢瀬を果たすも、また二人は離されてしまう。
やがて、再び彼とその人は巡り合った。お互いに恋人だった頃の記憶はなかったけれど、二人は不思議と惹かれ合い、彼が冥府に帰るその時まで特別な時を過ごした。
冥府と現世・・・二人の世界は分かたれてしまったけれで、彼の顔はとても穏やかだ。いつかまた愛しい人に逢えるその時を、今度こそ信じて待つことができるからだね。
薄暗い冥府に、白く透明な雪が降る。薬指に触れて溶け、指輪のように雫の跡をつけた結晶に、彼は愛おしそうに口づけた。・・・彼はようやく、救われたんだね。


今度は真紅の宝石”ミヤビ”だ。一面の薔薇園が見えるよ。
そこにいる彼女は薔薇の化身だ。薔薇の美しさと香りで人間を誘惑し、生気を吸っていたその魔物は・・・反対に、ある騎士と出会って恋に落ちてしまった。
彼女は人間を苦しめる己を恥じ、人間を糧にすることをやめて、代わりに毎日騎士へ薔薇を贈った。・・・やがて彼女は力尽き、たった一本の薔薇を残して消えた。
騎士はそれからどうしたと思う?もう一度彼女に会いたくて、その一本の薔薇を植えてみたんだ。・・・すると彼女は本当に、「ただの薔薇」として生まれ変わった。
少し背の伸びた彼女が、騎士の手を引いて庭に向かうと、そこには挿し木から少しずつ増やした九十九の薔薇の花。


綺麗だと騎士が褒めると、俯いた彼女の顔がわずかに薔薇色に染まった。・・・ねぇ、もしかすると彼女は花言葉で・・・
・・・ふふ、そうなら素敵だよね。・・・そうだ、この宝石”リデル”をご覧。晴れた日の高い空のように透き通った水色をしているよ。
今度の主人公は森に住む小さな姉妹だ。無邪気な妹と優しい姉。けれども、姉か森の中で魔女に魅入られてしまい、2人は離れ離れになった。
そこへ現れた騎士が魔女を倒し、姉を正気に戻した。再開を果たすことができた二人は大喜びし、騎士に心からのお礼を言った。
平和な森で、高くブランコを漕ぐのは無邪気な妹。それを楽しげに見つめるのは、いつも通りの優しい姉。やがて妹がブランコから手を放し、姉の方へと飛び降りる。


姉が妹を支えきれずに、二人は湖へと転がり落ちた。浅瀬に座り込み、大笑いをする二人の隣で、水しぶきの作った虹がきらきらと光った。
・・・姉妹って良いものだね。次の宝石”シュエル&ガーノ”に映し出されるのも、兄弟のようだよ。コーヒーとクリームの混ざり合うような、マーブル模様の宝石だ。
対照的な双子の兄弟は、恋に向ける気持ちもそれぞれだ。真っ直ぐな性格の弟は、恋した相手のために騎士と修行を重ねて強い男になろうとしたけれど。
・・・好きになった女性の求めていた強さは、戦いの強さではなく心の強さだったようだね。強さにも、色々あるみだいだ。
噂をすれば、弟がまた女性との逢い引きから帰ってきたようだね。兄が首尾を聞くと、途端にブラックコーヒーを飲んだような苦い顔。


「だから甘くないって言ったじゃない」。兄は楽しそうに笑うと、生クリームの乗ったケーキにフォークを伸ばした。・・・ふふふ、恋って難しいね。
次の”マロン”は、砂糖菓子のようにピンクと紫がきらめく宝石だ。映っているのは、可愛らしい洋服を着た少女だね。
少女はある国の王女だった。誕生日を迎えて成人する前日に、彼女はふと思い立ち、精一杯好きな格好をして街へと飛び出した。
彼女が城の追っ手から逃げる最中で出会ったのが騎士だった。彼女はその日だけは身分も責務も手放して、騎士と二人で子供としての「最後の日」を楽しんだ。
今、彼女が天蓋つきのベットで語りかけるのは、1日早い誕生日プレゼントに騎士から貰ったぬいぐるみ。


「ねぇ、次はいつ合えるかな?」ぬいぐるみの瞳に映る王女の顔は、誰より幸せそうだ。合いたい相手に会えるというだけで、こうも素敵な表情するんだね。
次も、出会いの物語。優雅な光を宿すロイヤルブルーの宝石、”エリーゼ”だ。肖像画の奥で、美しい令嬢が微笑んでいるね。
肖像は、売れない画家が叶わぬ恋の相手を描いたものだった。画家はある時突然姿を消してしまい、令嬢は愛しい画家を思うあまりとうとう絵から抜けだしてしまう。
そこに現れたのが騎士だった。数奇な巡り会わせで、騎士は肖像と画家を引き逢わせる。画家とようやく出会えた令嬢は、肖像画の中で幸せそうに微笑んだ。
・・・年老いた画家が椅子に揺られてうたた寝をしているね。おや?近くの肖像画から令嬢がそっと抜けだして、画家に優しく毛布をかけてあげたようだよ。


こちらに気付いて人差し指を唇に当てる令嬢は、まるで恋する少女の顔だ。「レディには秘密がつきものよ」・・・令嬢がまた絵に戻っていく。幸せな物語だったね。
次は、泉のように深く清らかな碧色をして”カノン”という宝石だ。美しい少年が、騎士を水辺へと誘い込んでいるね。
彼は水仙の妖精だった。美しさと引き換えに儚さと弱さを背負った彼の種族は、人間から遠く離れ、羽を隠し、泉を護りながら遠い年月を過ごしていた。
彼は泉に迷い込んだ騎士と僅かな触れ合いの時間を紡ぐと、種族の定めに従い、騎士の幸せを祈りながら、記憶ごと騎士の前から消えた。
彼は泉に迷い込んだ日から、騎士の毎日には幸せな出来事が絶えなかった。なぜかって?カノンのおまじないと彼の願いが常に騎士の傍にあったからさ。


別れ際にカノンが密かに残した記憶の欠片は、年々輝きを取り戻している。いつか再開した暁には・・・人間と妖精が分かり合う架け橋に、騎士はなるかもしれないね。
次の宝石は”柘榴”。艶やかさと強さを秘めたガーネットだ。色っぽい妖狐の女性が映っているね。
彼女は千年以上生きた善い狐、「天狐」だった。悪戯っぽく無邪気な面を見せる彼女にも、一方で長い寿命を誰とも分かち合えない寂しさが覗く。
強い妖気のせいで一処にはいられない彼女は、月日が経っても、転生を重ねても、いつか必ず巡り合えることを信じて、騎士に別れを告げた。
それからというもの、柘榴の好物である甘めのお稲荷を持って出かけるのが癖になっていた騎士。ある年の桜が綺麗な日も、柘榴に合える事を願って持ち歩いていた。


「今日もまた会えなかった」・・・そう騎士が思ったその時だった。お稲荷さんが1つ消えて・・・「また逢えたわねっ!」と微笑む彼女は、満開の桜よりも美しかった。
今度の宝石はこれだよ。鴉の濡羽色をしたその宝石は、”レイヴン”という名前だ。映っているのは、気まぐれで残忍な魔界の王子。或いは闇鴉。
天界からも魔界からも追放を受けた彼は、人間の世界に密かに身を潜めていた。そこで偶然、騎士が彼の姿を目撃する。
初めは口止めのために彼の手で消されそうになっていた騎士だったが、反対に魔界からの刺客から彼を庇い、彼の心に不思議な感情を芽生えさせた。
その後天界と魔界から逃げ続けていた闇鴉は、騎士が絶体絶命の窮地に陥っているのを見つけて言い放つ。「俺以外の敵なんかで、何瀕死になっているわけ?」


鴉は騎士を颯爽と助け、敵を華麗に掻っ切った。再び出逢った騎士とレイブン。2人のその後は・・・戦ったのか、それともお近づきになったのか。さあ、どうだろうね。
次に見せるのは、”アロエッテ”。黒に近い紫色をした宝石だ。モノクロの世界を、黒い洋服の少女が歩いているね。
彼女は気が付けば影の世界にいた。振り向くと彼女自身の影はなく、影を失った心細さから、彼女は花や小鳥の影を切り取っては自分のものにしようとした。
彼女が次に欲しがったのは騎士の影だった。けれども騎士の話を聞くうちに、彼女は自分自身が本体から離れた影だったことに気付く。
彼女は元の世界で眠る自分の本体の為に、影の世界から抜け出す決意をした。・・・影としての自分が記憶を失ったとしても、またいつか騎士と出会えることを信じて。


今、楽しげにおめかしをしているのは、元の世界で影と一体になった少女。彼女がワルツのステップを踏むと、影も合わせてワルツを踊る。
彼女は軽やかなステップのまま窓辺に立つと、門の外で待つ騎士に「今行くわ」と微笑んだ。・・・ふふ、彼女の”影”もどことなく弾んで見えたね。
この宝石は”ラゼッタ”。無機質な外見からは想像もつかない綺麗な色をしたフローライトだ。映っているのは、遥か未来の電子の守り人のようだよ。
彼女はヒトがシステム維持のために作り出した次元の独裁者。そこには、判断の妨げとなる感情や情緒は一切存在しない筈だった。
しかし彼女は、騎士という例外と出会い、感情というバグを知り、そうして最後には人間と同じ温かなこころを胸に抱きしめて壊れていった。


0と1の世界の狭間で壊れてしまった彼女。彼女が消えた後、彼女の欠片を懸命に拾い集める人間の姿があった。それは、あの時彼女に「心」を教えた1人の騎士。
今はまだ、彼女は眠ったままだ。けれども、内側に眠る心の温かさは失われていない。「心を持ったAI」として彼女が目覚める日は、きっとそう遠くはないだろう。
次の宝石の名前は”クロノ”。この深い森のような緑色をした宝石は何を映すだろう。・・・黒い角の生えた青年がいるね。
彼は、あるとき刻忘れの森に立ち入った。刻の庭の番人に、花嫁を差し出す案内人として。
けれども刻の鐘は彼と騎士を追い立てるように鳴り響き、徐々に歪み始めた森の刻が、彼らを森の奥へ奥へと閉じ込めていった。


やがて森の中では現在・過去・未来が交錯しては絡まり合い、記憶も存在もあやふやになった彼と騎士が何度も出会っては別れる。
「あんた、見ない顔だな。俺と遊ぼうぜ」・・・もう何度目かになるその台詞を、彼はまた騎士に呟いた。
今度の宝石はピンクとラズベリー色のタイガーアイだ。名前はミラ&ラビ”。不思議な世界の奇妙な猫が、こちらを見ながらニンマリしているね。
ラビは絵本の世界の猫。少し危険なトランプやダーツで騎士を試して、絵本の主人公を探していた。
一方、ミラは戦いの世界の猫。妖しげな笑いで騎士を誘い、戦いの物語の主人公になるよう差し向けた。二匹の求めるものはただ1つ、「退屈な世界を変えるヒト」


・・・絵本が進み、奇妙な猫はハッとした。ここから先は、二匹も知らない、誰も来た事のない世界。知らない世界まで歩いた末に、その騎士は言ったんだ。
「先がわからない方が、楽しいじゃない!」とね。奇妙な猫は、心の奥がポカポカした。・・・絵本のページをめくる”アリス”を、ようやく見つけられたんだね。
次の宝石の名前は”アマテラス”。太陽の光を放つゴールドの宝石だ。・・・天津国のわがままな神様が天からこちらを見守っているよ。
異国から来たその女神は、騎士の居る国を大層気に入った様子だった。一度は在来の神々を追い出してまで、騎士の国を治めようとする。
すんでのところで騎士に制された女神は、かえって騎士を気に入って、これから騎士がいかなる苦境に立とうとも、温かな陽光で騎士を包むことを約束した。


この一件で、他の国を自分のものにしようとしたり、自分のことしか考えずにいた神様は、天津国で少し反省したみたい。・・・ほんの少しだけ。
他の国に何度も行けるわけではないようだけど、あの日出会った騎士のところへ気付かれないように出向いては、こっそり幸せを願っているようだよ。
・・・最後の宝石”モルテ”は、暗い灰色をしているね。映っているのは人間でなく、シニガミの姿だ。
彼の使命は、命の蝋燭の終を見守り、その魂を運ぶこと。彼が人間としての生を終えるその時に、ある願いと引き換えにその責を負ったという。
彼がその願いを騎士に話すことはとうとう無かったが、二人に生まれた不思議な絆は、騎士と話す時の彼の表情にもほんの少しの変化を与えた。


空気の澄んだ静かな夜。神秘的な光を宿す月に影を落とすように、黒く歪な翼が広がる。
「お前もなかなかくたばらねえな」シニガミがわずかに口の端をつり上げた。騎士も同じように微笑むと、誘われるように月光の下へと歩み出て行った。


・・・これで宝石はおしまい。だけど、最後に一番綺麗なものを見せてあげる。
ここにある両手一杯の宝石を、こうして空に放り投げると・・・
ご覧。持ち主のところに向かって輝きながら飛んでいく宝石たちが、流星のようで素敵だろう。
・・・最初から、朝が来る前にすべて返すつもりだったんだ。どんな物語だって、持ち主の心の中で輝いている時が一番綺麗だからね。
おや?足元にひとつ宝石が転がっているね。持ち主が見つからなかったのかな。


・・・ふふ、なんだ。この宝石に映っているのはこの夜の私達だよ。知らない間に宝石になっていたんだね。
この宝石は君が持っていていいよ。・・・いつかまた観たくなったら、君のところに盗みに行く。
それじゃあね、騎士さん。・・・いい夜を


摩天楼の怪盗ダイアナ

やぁ、騎士さん。どこかで会ったかな?この摩天楼から見える空はそんなに綺麗?
・・・「妖しげな影を追いかけて来たら君がいた」?心外だなぁ。私はただの怪盗だよ。
どうして怪盗をしているのかって?そうだな・・・追いかけられるのが好きなんだ。ちょうど、君のような人にね。
捕まったらどんな風になるか分からない、そのスリルにどうしようもなく心が躍るんだ。
けれども、それだけじゃない。私はある宝物を集めるために怪盗をしているんだ。・・・それはとっても美しくて、いくらでも眺めていたくなる宝物さ。


何だと思う?当ててみなよ。・・・もし当たったら、私のお気に入りをひとつあげる。
・・・絵画?金貨?ふふ、残念。私の集めているのは”物語”だよ。
”物語”を集めるなんて聞いたこともない・・・そんな顔をしているね。けれども、私にはそれができるんだ。
ねぇ、これをご覧。大粒の、綺麗な宝石だろう。・・・だけど、こうして夜空にかざせば・・・
ふふふ、驚いた?そう、まるで本物のように映像が映し出されるんだ。・・・私には”物語”を”宝石”に変える力があるんだよ。


今日のような星の静かな夜には、物語を眺めるに限るよ。だから、この国で一番高いここに来て、楽しもうとしていたところだったんだ。
そうだ、せっかくだから君も見ていかないか。とっておきの宝石を見せてあげるよ。
そうだな・・・「獅子と蛇の物語」から、「少女のお留守番の物語」まで色々あるけれど・・・初めはこれにしようか。
これから君に見せる物語は、すべてが「騎士にまつわる物語」だ。
宝石が映し出す「騎士」は・・・君かもしれないし、君じゃないかもしれない。それすらも君次第なんだ。


ふふ、難しい事を言ってしまったかな。ともあれ、こんなに穏やかな風の流れる夜だから付き合ってよ。それじゃあ、一つめを浮かべようか。
最初の宝石は、炎のような朱と、冷たい黒色のマーブル柄だ。”フレイムキマイラ”という名前だよ。空に映し出された光をご覧。不思議な生き物が映っているね。
半身が獅子、半身が竜とも毒蛇ともつかないその生き物は、牙を向いて騎士に襲いかかってた。騎士は辛うじて、彼・・・いや彼らを討ち取った。
次の宝石は”レイ&シェーディ”という名前。眩しい白色とほの暗い黒が混ざり合って光を放つ石だ。天使のような少女と、悪魔のような少年が映っているね。
二人は代わる代わる技を繰り出して騎士を翻弄した。騎士は真剣だったけれども・・・彼女達の楽しそうな様子を見ると、ただじゃれついていただけなのかもしれないね。


次は押し固められた氷のように無機質な石灰色の宝石だ。名前は”雪嵐”。彼は怨念を吹雪に変えて、騎士達に襲いかかる。
騎士達がいくら立ち向かっても、般若のような仮面の下は、とうとう明かされなかった。・・・もしかすると、初めから顔など無かったのかもしれないけれどね。
次の宝石の名前は”ピリム”。オパールのように自在に色を変える、ピンクと水色の不思議な宝石だ。
宝石が映している彼女は、宇宙からの侵略者だった。幾千万の時を旅して、何億光年の距離を渡る彼女の、侵略の目的はただひとつ。「友達を作ること」。
彼女の”こみゅにけーしょん”はなかなか騎士には伝わらなかったけれど、それでも騎士は、彼女の初めての「友達」になった。


・・・遠い宇宙の彼方、宇宙船に揺られて彼女は深い眠りの中だ。楽しい夢なのだろうか、彼女の触覚がしきりに動く。
幸せそうにまどろむ彼女がかすかに騎士の名前を呼ぶと、遠くでまたひとつUFO落ちた。
次は鏡のような深い銀色の、”ダニエラ”と言う名前の宝石だ。そこに映っている女王は、自分よりも美しい存在をただ妬んで、主人公達に襲いかかった。
「鏡よ鏡、鏡さん」。・・・不気味に占う声が、今もどこかでこだましている。美は永遠ではないけれど、人が美を求める気持ちは永遠に尽きないのかもしれないね。
次は、角度によって赤や黒、白に輝く宝石。”ミツル”という名前だよ。・・・群集を魅了しながら歌う、若い青年の姿が見えるね。


魅了しているのは彼の魔力か歌声か。どちらにしても、声援を飛ばす少女達は一向に熱狂から醒める気配がない。・・・君も彼のような危ない男には、気を付けてね。
次は、どこか懐かしい暗緑色をした”ヤミール”という宝石だ。学校の様々なものが寄り集まって、モンスターのような生き物になっているね。
彼は学校のどこにでも現れる。いつかは学校を離れてしまう子供達との、短い時間を楽しむために。・・・君の想い出の中にも、もしかすると彼の姿があるかもね。
次は、くすんだ紫色の宝石”アルナープ”だ。忘れられた兎のぬいぐるみが、少女を探してさまよい歩いているね。
幸せだった”少女との時間”を大事に鳥籠へ閉じ込めて、今日も綿のはみ出た足を動かしながら彼は少女を探している。・・・いつか、会えると良いけれどね。


次は暗く光る”ジン”という宝石だ。静かな瞳の男が、異形を召喚しているね。
彼の周りには人間が寄り付かない。けれども、不思議と孤独さは感じられない。「・・・だって友達はもういるから」彼は誰にともなくそう言うと、指輪を握りしめた。
次は紅蓮に輝く宝石だ。名前は”ノブナガ”。強い野望を持った男が凶悪な妖刀を手に入れて、薄い笑みを浮かべているね。
男も、妖刀も、間違いなく悪だ。けれどもそこから生まれる技は不思議と美しい。・・・研ぎ澄まされた純粋な悪は、かえって人の心を掴むのかもしれないね。
次は白地に赤や黒の文様が走る宝石だ。その名前は”シャッフルガード”。女王の命令に忠実なトランプ兵達が、騎士へと果敢に向かってきているね。


その姿は真剣そのものなのに、どこか滑稽で愛らしい。・・・私もいつかは不思議の世界に招かれて、彼らと手合わせをしてみたいよ。
次は2色の宝石だ。白と黒の文様が寄り添う、”リオン&ソフィア”。・・・映っているのは、ワガママなお嬢様と面倒見の良さそうな執事かな。
「リオン、紅茶を入れなさい!」「紅茶が熱い、やり直し!」「今度はぬるい、やり直し!!」。執事は今日も、お嬢様に振り回されっぱなし。
「いいこと?リオン!あの騎士にあげたチョコは確かに”義理だけど、あなたにあげるチョコがほっ・・・”本命”だなんて、限らないんですからね?」
そう言い放つソフィアに、リオンが意地悪心を働かせて「では、お嬢様のくれるチョコレードは”義理”なのですね?」とわざと悲しそうにつぶやく。


咄嗟に「ち、違うのよ!!義理じゃ・・・」と言い繕ったソフィアに、リオンがにやりと笑みを浮かべた。・・・この執事、なかなか食えない性格かもね。
次は怪しく緑に光る宝石だ。”13人目の魔女”と名前がついているよ。眠り姫に出てくる魔女にちなんでね。・・・魔女は心から姫を妬んでいた。けれども・・・
剣でも槍でもなく、傷口の一番小さな糸車の針を選んだのは・・・その美しさを奪うことにどこかで躊躇したからかもしれない。・・・美しさって、本当に罪なのかもね。
赤紫色に光るこの宝石は”ヒルド”。映っているのは、少し攻撃的な表情をした女性だ。
彼女は世界の秩序を正す時空結社の一員だった。世界に大きく干渉し、秩序を乱した容疑をかけられて、騎士は彼女の標的となる。


騎士を連行しようと追いかける彼女の顔はどこか楽しげだった。騎士の容疑が晴れ、騎士の世界から離れることになると、彼女は彼女なりの態度で別れを惜しんだ。
それから月日が経ったある日のこと、彼女は上司に休暇を申請する。
「・・・待ってろよ。今度こそ連行してやる」。にやりと笑った彼女の向かう先は、もうとっくに決まっていた。
次の宝石は真珠のような見た目をしているね。名前は”メロウ”と言うみたいだ。夢見がちな表情の人魚姫が映っているね。
彼女が探しているのは”運命の王子様”。初めは”王子様探し”の障害となる騎士に敵意を向けていたけれど・・・


やがて、騎士そのものが”運命の王子様”ではないかと思い当たった彼女は、一転、強烈な愛情を騎士に向け始めた。
遥か海の底、ピンクの真珠貝のベッドで彼女は物知りな魚に問いかける。
「おさかなセンセイ・・・メロウの王子様はいつ振り向いてくれるの?」・・・恋する海のお姫さまは、今夜も眠れないようだ。
次の宝石の名前は”花雫”。桜色の結晶体に金の文様が走る宝石が映し出したのは、「斉藤」という厳しい顔の軍人だ。
過去の戦に縛られ、己を悔い、現体制への憎悪をひたすらに暮らせていった結果、彼の背負うものはいつしか彼の刀だけでは斬り伏せられない大きさになっていた。


彼は騎士に対しても敵意を露にして刀を向けた。けれども騎士がその心へ踏み込む、憎悪で覆い隠された真の悲しみに触れた時・・・彼は初めて、過ちに気付いた。
それまで憎むことで生を繋いでいた彼は、騎士にだけは、他人には見せない表情や執着を見せるようになった。帝国軍の鬼神と呼ばれた・・・あの”斉藤丞大佐”かね。
人はこうも変われるのだろうか。今、彼の瞳は春の桜のように穏やかだ。・・・誰かを想う優しさが、またその心に戻ったからだね。・・・ふふっ、お幸せに・・・
次の宝石は真っ白な球体だ。名前は”月見”。楽しそうにお団子をこねる兎が映っているね。
けれども、兎は宴の準備の途中で月からこの世界に転がり落ちてきてしまった。


兎はそれでも明るさを失わず、故郷の”オツキミ音頭”を唄いながら国中の人間や魔物を宴の準備に巻き込んでいく。
その後、無事迎えの使者が来て月に帰ることができた兎は、今年も宴の準備を始めた。
「今度こそ、ドジを踏まずに宴を成功させるでち!」意気揚々とお団子を運ぶ兎の足元には小石。少し先には、去年落ちたあの池。・・・今年の十五夜も波乱の予感だね。
このオレンジと紫の入り混ざる宝石は”マッドローズ”。悪戯好きで陽気なモンスターが主人公だ。
彼女は人間を驚かせるのが大好きでね。その年のハロウィンも、屋敷に人間を招き入れた。


彼女は屋敷の宝物を騎士に盗まれたという芝居をして、「モンスターが君を食べちゃうぞ!」と騎士を脅かした。
結果は大成功。すっかり味をしめてしまった彼女は、今年もまたハロウィンの準備を始める。
目玉ゼリーのジュースを片手に、彼女の悪企みは止まらない。「今度はどうやって驚かそうかなぁ。キャハハッ♪」。・・・ことしもご機嫌なハロウィンになりそうだね。
次の宝石は一等星のように輝く白色をしているね。名前は”シリウス”。映っているのは強力な魔術師の青年だ。
彼は「世界で一番強い魔術師」になるため、ライバルとなる騎士の力を試す。


自分と互角かそれ以上の力の持ち主を見つけた彼は、焦りよりも高揚が勝り、騎士との決闘を心ゆくまで楽しんだ。
騎士を元の世界に還すまでに、更に二人は熱いバトルを繰り広げたようだね。彼にとって、騎士は忘れられない存在になったようだよ。
彼は今宵も飽きることなく、得意の魔術で騎士を宴へと誘い入れる。騎士は・・・時の狭間の住人になってしまわないよう、気をつけないとね。ふふふ。
次の宝石”イル”は、細やかな文様のついた羊皮神色の宝石だ。・・・何やら訳ありのようだよ。
物語の主人公は”禁じられた書”を手にした小さな子供だった。その本は一見、「赤ずきん」の絵本のようにも見えるけれど・・・


他の本と違うのは、物語の世界の住人が意志を持ってしまったこと。住人は本の世界と現世とをさまよううちに、自分が何者かも忘れてしまっていた。
禁書を手にしていた子供はやがて、自分自身もまた本の世界の住人だったことを知る。
子供は、いつか出会った親友への伝言を騎士に託しながら、本の世界へと帰って行った。
次の宝石の名前は”リリー”。黒い結晶の中に暖かな金色の光を宿す宝石だ。引っ込み思案のお嬢様が映し出されているね。
彼女は、籠の鳥のように屋敷に篭もって暮らしていた。両親とメイド以外の人間を知らない彼女は、初め騎士にも警戒心を見せる。


しかし何度も騎士と心を通わせるうちに、屋敷の扉のように閉ざされていた彼女の心は開かれて、徐々に光が差し込んでいった。
ある晴れた日、彼女は用心深げに人形の手を握りながら少しずつ屋敷の扉を押し開ける。
扉のすき間から飛び込んでくる眩しい光の向こうで、彼女を待つ騎士がわずかに微笑んだ気がした。
・・・この宝石についた名前は”ノエル”。雪のように透き通ったクリスタルだよ。寒い冬の日に、両親の帰りをけなげに待つ少女が見えるね。
彼女の両親は高名な魔法使いだった。忙しい彼らを待って、いつも屋敷で留守番をしていた少女は、騎士に出会うと外の世界の話をねだった。


やがて騎士と心を通わせる中で、雪に凍える様だった少女の心は温まっていった。そしてクリスマスの日、少女は騎士に花を差し出すと、幸せそうな笑顔を浮かべた。
時は流れて、映し出されるのはすこし大きくなったあの子。少女は世界のことを少女に教えてくれていた騎士について、今では色んな世界を一緒に観ているようだよ。
・・・少女との約束を守るべく、何度も何度も騎士は少女に逢いに行っていたようだね。騎士は、あの子にとって、王子様になっているのかもしれないね。
さぁ、宝石はこれでおしまい。物語を観終えた宝石はね、こうして・・・
全部夜空にばら撒いてしまうのさ。持ち主のいる方に向かって、流れ星のように輝きながら飛んでいく宝石たちが、とても綺麗だろう。


・・・ところで、この首元の宝石は何の物語なのかって?
これは大昔、怪盗として唯一起こした”失敗”の物語さ。恥ずかしいから、肌身離さず持っているんだ。
ふふ、誰にだって失敗はあるよ。・・・あれは今日みたいに星の静かな夜だった。うっかり美術館の屋根から滑り落ち、足を挫いてしまった怪盗の前に騎士が現れて・・・
・・・なんてね。続きを知りたければ、今度は君が奪いにおいで。
それじゃあさようなら。・・・いい夜をね。


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