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愛惜の棘姫ミヤビ

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4/27~5/9

第一回スペボスホワイトデー 1位記念イベント

前回→幽館に咲く薔薇ミヤビ


愛執の棘姫ミヤビ

おや・・・珍しく客人が来たかと思えば・・・ぬしだったか。

再び相まみえることになろうとは、これより嬉しきことは、なさんすえ。

くすくすくす・・・わっちはミヤビ。ぬしも知っての通り、この薔薇園の主でありんす。

ふふ、『何を笑うのか』・・・とな?

今度こそは、ぬしを逃さぬようと・・・そう考えていたのでありんす。



くすくすくす・・・くすくすくす・・・

ふふふ、今さら慌ててみても無駄なこと。

すでの薔薇の蔓で編んだ、ぬし専用の檻が完成しておるぞ。

くすくすくす・・・そんな顔をするものではなさんすえ・・・。

未来永劫、わっちがぬしを可愛がってやろう。



幾重にもなる薔薇の花びらのように、わっちの愛には終わりがなさんす。

この薔薇の檻からは、わっちが解かぬ限り出られませぬぞ。

わっちが丁寧に編み上げた薔薇の花と蔓の檻、いかがかえ?

『出して欲しい』とな?ふふふ、まだそんなことを言っておるのか。

『騎士』の任務など、もうどうでもいいであろう?



わっちとこの薔薇園で永遠の時を過ごしてくれなんし。

・・・なに、まだ外の世界に未練があると?ふふふ、ぬしも往生際が悪いのう。

不条理なことばかり起きる世界よりも、この幻想的な薔薇園で生きるおうがずっと幸福じゃ。

・・・だから、わっちは以前にぬしを帰してしまったことを、ずっと悔いておった。

ふふふ、面白いやつじゃ。謝罪などせずとも、ぬしがもうここから出ないと約束してくれればよい。



『それはできない』とな?

・・・最早、ぬしがどう思っているのかなど関係ない。この薔薇園ではわっちが『法』でありんす。

くすくすくす・・・ぬしに拒否権など、最初からないのじゃ。

薔薇の精気を吸えば、ぬしも永遠の若さと命を手に入れることができるぞ。

どうじゃ?魅力的であろう・・・?



ごめんなさい。やっぱりここにいることはできない。

・・・なぜじゃ。一体何が不満なのかえ?

ごめん、ここの外には大切なものがたくさんあるんだ。

大切な・・・もの・・・とな?

家族、友人、恋人・・・大方、そんなところかえ。



くっくっく・・・そうか、それらがぬしを縛っておるのじゃな?ならば・・・。

わっちがすべて壊してやりんしょう。

ほうら。わっちの薔薇の毒を使えば・・・ぬしの大切な記憶も、あれよという間に壊れていく。

くすくすくす・・・ヒトの記憶とは、儚いものでありんす。

あれ、今まで一体・・・何をしていたんだっけ?



ふふふ、よいよい。何も考えず、何も思い出さなくともよいのじゃ。

わっちとこの薔薇園で悠久の刻を過ごそうぞ。

くすくすくす・・・泣いているのかえ?大丈夫じゃ・・・わっちがいるであろう。

笑いなんし。わっちと二人、楽しく暮らしてくりゃれ。

ほうら、いつまでも冷たい檻の中ではつらいであろう?出てきなんし。



・・・これからは、わっちとここで暮らしてくれるな?

ふふふ、そうかそうか。素直でよいよい。

あちらにぬしのために咲かせた大輪の薔薇があるのじゃ。

くすくすくす・・・ほら、わっちの手を取りなんし。一緒に薔薇を見に行きなんせんかえ。

綺麗であろう?それに良い香りもする・・・薔薇は良いものじゃ。



ぬしとこうして薔薇を眺めるのをずっと楽しみにしておった。

夢が叶って嬉しいぞ。ふふふ、ぬしの笑顔も早く見たいものじゃ。

この薔薇園には、悠久の刻がある・・・薔薇鑑賞を楽しむうちに、ぬしの心も解れよう。

わっちはいつまでも待っていてやろう。ぬしがわっちに心を開く日を。

それまでわっちはぬしのために何度でも綺麗な薔薇をさかせてやろう。



愛惜の棘姫ミヤビ

くすくすくす・・・しょせんヒトは弱い生き物・・・わっちの力でどうとでもしてやれる。

・・・なんじゃ、今日は元気のない顔をしておるな。

腹が減っているのか?それとも、体の調子が悪いのかえ?

・・・以前のぬしとは別人のようじゃ。顔から生気が抜けておる。

ヒトは脆いものじゃ・・・この薔薇園とわっちの力が及びすぎたか・・・。



ふふふ・・・だからと言って、わっちはぬしを手放す気はないぞ。

くすくすくす・・・今やぬしの運命はわっちがすべて握っておる・・・。

活かすも殺すもわっちの指先ひとつで決まるのじゃ。

だが、わっちはぬしを殺さず活かす・・・ぬしはわっちとこの薔薇園で悠久の刻を生きるのでありんす。

そのためには・・・ぬしの残った記憶も邪魔でしかない。



やはりこの世界には、わっちとぬしの他に必要なものなどあるはずもないのじゃ・・・。

ほうら、こちらへ来なんし。何も怖いことは無さんすえ。

薔薇の毒がぬしの記憶を蝕んでいく・・・ふふふ、これでようやくぬしはわっちのもの。

わっちにはぬし・・・ぬしにはわっちだけが残るのでありんす。

ミヤ・・・ビ・・・。



そう・・・そうやってぬしはわっちの名だけを呼べばいい。それ以外は不要なものじゃ。

あ・・・うぅ・・・あぁ・・・。

・・・なんじゃ、まるで枯れた薔薇のよう・・・以前のぬしの面影はすっかり消えてしまった。

あんなに輝いていた瞳は、今では何も映すことはない・・・。

わっちは何か間違えてしまったようじゃ。



・・・ふふっ・・・ふふふ・・・そうか、そういうことか。

わっちはヒトにとっての記憶というものを、甘く見ていたようじゃ。

ヒトを形造るモノ・・・記憶もヒトの大切な一部であったということか。

ふふふ・・・まだまだ世の中、知らぬことのほうが多いのう。

仕方がない・・・このまま籠の鳥のようにぬしを閉じ込めていては、ぬしはぬしではなくなってしまう。



ぬしを諦めるわけではないが・・・薔薇園からは出したほうがよい、か・・・。

ああ、名残惜しい・・・ぬしを手放すのは、心の臓を切り刻まれるかのごとしじゃ・・・。

わっちはしくじりささんした。己のしくじりは己で始末をつけねば。

ほら、ここを抜ければ外でありんす。振り返らずにまっすぐ行きなんせ。

あれ?ここは・・・今まで一体、何をしていたんだっけ。ああそうだ、薔薇園でミヤビに記憶を・・・。



まだいたのかえ。用済みの人間はさっさと去りなんし。

ミヤビ・・・もしかして、助けてくれたの?

くすくすくす・・・『助けた』?なんじゃ、随分とぬしはお人好しじゃな。

わっちはしょせんヒトとは違うコトワリを持って生きる妖。ぬしとは住む世界が違ったのじゃ。

さぁ、薔薇園でのことは忘れて、早くここから去りなんし・・・!



ちょっと待って。最後に・・・この指輪をミヤビに。

指輪?これは・・・ぬしの血を固めて作ったのかえ。

ミヤビの薔薇の毒が体内で変化を起こして、一時的に血に不思議な力を与えてくれたみたい。

ふふふ。こんなことができたのはぬしが初めてじゃ。これも騎士の成せる技か・・・最後に粋なことをしてくれたのう。

くっくっく・・・そうか、わっちのために・・・ぬしが指輪を・・・。



ミヤビ、あの・・・。

・・・もうよいであろう?気が済んだなら、去りなんし。

ふふ、行ったか・・・ひどいやつじゃ。こんなものを渡されては、ぬしを忘れられなくなるというのに。

ぬしの血を固めた真っ赤な薔薇の指輪・・・わっちはこれから薔薇園を眺めるだけでぬしを思い出す・・・。

きっとぬしは二度と戻らぬだろうに、わっちはどうしても期待をしてしまうのじゃ。



三千世界の鴉を殺し、ぬしと朝寝がしてみたい・・・。

ふふふ、叶わぬ夢は・・・見るだけでもつらいのう。

さて、そろそろ薔薇の世話をする時間じゃ・・・放っておいては可哀想でありんす。

・・・気のせいかえ?誰かの、足音が・・・。

いや、そんなはずはない・・・わっちの聞き間違えでありんしょう・・・ふふふ。



献身の棘姫ミヤビ

くすくすくす・・・今日のわっちの姿はどうじゃ?綺麗に咲けておるか?

うん、今日も凄く綺麗だよ、ミヤビ!

花の姿になってどれほど経ったか・・・存外、快適なものよのう。

きっとぬしがわっちのことを大切にしているからであろう。

毎日の綺麗な水と、十分な栄養・・・甲斐甲斐しくぬしがわっちを世話する姿は、見ていて飽きぬ。



くすくすくす・・・ぬしが『綺麗』と褒めるたび、わっちの美には磨きがかかるのじゃ。

わっちはぬしの花・・・ぬしの言の葉の力でいくらでも美しくなりんす。

この姿になってから、なぜか心が軽やかで・・・とても楽なのじゃ。

何もかもから解き放たれたような・・・。くくく、ぬしには囚われておるかな?

わっちの世界はぬしだけじゃ・・・ぬしだけが、今のわっちの生きる意味でありんす。



そうか・・・ミヤビにももっと友達が必要かもしれないね。今度ミヤビに大切な人たちを紹介するよ。

ふふふ、大切な人・・・か。ぬしは残酷じゃのう。

わっちにはぬししかいない・・・ぬししかいらぬのじゃ。

ぬしにもそうであって欲しいとわっちは願っているのに・・・ぬしはそれを許さない。

わっちは今すぐにでも枯れてしまたいぞ。



そんなこと言わないで・・・!どうしたらいい?

くすくすくす・・・そうじゃのう。一日中わっちを眺めて『綺麗』と言ってほしい。

一日中・・・は難しいけど、ミヤビはいつだって綺麗だよ。

ふふふ、仕方がないのう。

わっちはつくづくぬしに弱い。ぬしが『綺麗』と言えば、すぐに胸躍ってしまう。



薔薇園にいた頃のわっちとは大違いじゃ。どんどん角が取れて丸くなるばかりよ・・・。

じゃあそろそろ出かけるから、留守番よろしくね。

相わかった。気をつけて行きなんせ。

もう帰ってきたのか?・・・しかしあやつの足音ではないな・・・何やつじゃ?くくく、身の程知らずの侵入者か。

幸い、わっちのことをただの花と思っているらしいのう・・・これは好機。



・・・こやつ、魔王軍の手の者か。ただの花には何でも話してしまうとは・・・くくく。

何も知らぬ騎士が罠にかけられるのを黙って見ているわけにはいかぬのう。

仕方がない。花に生まれ変わって、ほとんど消えたが・・・それでも僅かに残っていた力を使う時が来たようじゃ。

くすくすくす・・・ああ、煩い。ヒトの声はなぜこうも煩く感じるのか・・・静かに散りなんし!

騎士とは大違いじゃ・・・あやつの声は耳心地良くわっちの心を揺らすというに。



せめて最期くらいは美しく鳴けばいいものを。

ああ、いやなものを聞いた・・・早く騎士に会いとうなった。

くくく・・・力を使いすぎたかのう・・・形が維持・・・できなく・・・ふふ、しくじりささんした、か・・・。

ああ、口惜しい・・・ぬしともっと話がしたかった・・・。

ミヤビ!?一体、これは・・・!?



ふふふ・・・戻ってきたか・・・短い間じゃったが、ぬしとの時間は・・・楽しいものでありんした。

ミヤビ!しっかりして・・・!

涙はぬしには似合わないでありんす。

けれど・・・ああ、わっちのために泣くぬしを見るのが、こんなにも嬉しいものとは・・・。

ミヤビ・・・!さよならなんて嫌だよ!



くすくすくす・・・生と死は・・・繰り返しで、ありんす。いずれまた・・・会える時も来ましょう・・・。

ああ、想い半ばで散ることは無念でありんすが・・・。

毒の薔薇を司るものでもなく、ただの一輪の花としてぬしのそばで咲けたこと、至上の喜びでありんした。

はぁ・・・わっちの戦は終わり申した・・・最期にぬしを守ることができて本当によかった・・・。

くすくすくす・・・そのように泣くでないと申しておるのに。けれど・・・綺麗な涙でありんす・・・。



このなぐさみをともに死ぬるなぞ、これより嬉しきことは無さんすえ・・・。

ぬしの記憶の中で・・・わっちは永遠に生きなんす・・・。

ああ、そんな!ミヤビ・・・枯れてしまった・・・うぅっ。

・・・あれ?ミヤビが枯れた跡に・・・何か、落ちてる?これは、種・・・?

あの薔薇園の大輪の薔薇みたいな赤色の種・・・きっとまたすぐに会えるよね、ミヤビ・・・。



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